感謝
この文章を読んで下さる方がいらっしゃると嬉しいですね。題名が、「この授業を楽しんで下さった方へ」ですから。
皆さんよく勉強して下さったと思います。しかし、やはり重要なのは、しっかり理解できているかです。期末試験をもう一度やり直してみるのはとても良い事だと思います。後になると忘れてしまいます。試験のあとが最善です。
授業では定義と例と理論と証明の流れを大切にし、演習では計算できることを大切にしました。教科書は、計算ができるようになることをたくさんの例で、説明し、11章には、応用がかなり広い範囲でまとめられていました。この11章で、まだ読んでいない部分を読んでみることをお薦めします。ほとんどすべての節を読めると思います。
もう少し理論をまとめて勉強してみたいと思う人は、参考書にあげてある、東京大学出版会の斎藤正彦著「線型代数入門」の第2章と第3章をじっくり読んでみて下さい。1章は必要なところだけもどって読む事にして、第2章から読むのが良いでしょう。そのあと、第1章そして、第4章へと進んで下さい。興味があれば、第5章の1節が固有値と固有ベクトルを扱っていますからこの節だけ見てみるのもよいでしょう。この本は、少し難しいですが、じっくり読むよい勉強になると思います。数学や物理をしっかりと学ぼうとする人はいずれこの本のレベルまで理解することが求められます。この本には、演習書もありますが、なかなか難しい問題がたくさん載っています。図書館で見てみるのも良いでしょう。第1章の3節、第2章の3節、6節、7節、第4章が、次の「線形代数学」で勉強する部分です。春までに、2ー3ー1章を終わる事ができれば一番良いですね。自分は英語のせいであまりよく分かっていないから基礎からもう一度勉強したいと思う人は、「アントンのやさしい線形代数」第1章から順に第3章まで読んで行って下さい。そこまで読めたら、あとは、どんどん最後まで読んでいって下さい。
この授業は「線形代数学」へとつながり、そしてそれは、「線形代数学特論」に続きます。線形代数入門では、行列と行列式、この二つを道具として連立一次方程式を考え、最後に少し固有値や、対角化を学びました。どちらかというと、目に見える行列や連立一次方程式が対象でした。いろいろな重要な概念や定理が出て来ましたが、これをもっと有効に利用するために、数学で重要な抽象化をします。行列やベクトルではなく、それらを全体としてあつかい、線形空間というものを考え、その間の写像(関数のような対応)として線形写像(一次写像ともいいます)を考えます。実は、これらはまさに、行列やベクトルを考えることと同じであることが分かり、階数などの概念もはっきりと理解できるようになります。行列式がゼロでない事と線形写像が全単射で対応する空間を同じものと考えられるというようなことも分かります。線形代数は微分積分とならんで、数学を利用する上でもっとも有効な理論ですが、このような抽象化を通して、微分方程式を考えたり、多変数の関数の微分積分を考えたり、空間の幾何を考えたり、ある性質をもった関数の微分積分学をつくったりすることができます。また、代数学への発展の基礎ともなります。線形代数学特論では、固有値や固有空間の概念を線形代数学で学んだことを土台にして学び、行列を一番扱いやすい形(たとえば対角行列)に変えて調べる事ができるようになります。数学の素晴らしさ、美しさ、有用さを学ぶ事ができる絶好の機会です。是非、線形代数学も楽しんで下さい。ほんの少しですが、微分積分学でも、行列や行列式が出て来ますよ。
自然科学でも、社会科学でも線形代数学は重要です。社会科学でも特に外国の大学院で学ぼうとするとき、よく問題になるのは、日本で線形代数や微分積分を履修していない事です。まして、自然科学を学ぶ人が線形代数入門だけでは足りないのは当然だと思います。ちょっとしんどいと言う人は、一応心の片隅においておいて、3年生や4年生になってから線形代数学にチャレンジしてみても良いと思います。そのころには、物理だけでなく化学でも教科書にたくさん出てきていると思います。数学は勉強し、理解しないと美しさ、有用さを知る事ができないものです。みなさんのチャレンジを期待しています。