Last Update: December 31, 2024

2024年読書記録


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  1. 「新約聖書の奇跡物語」川中仁編 リトン(ISBN978-4-86376-092-9, 2022.10.3 発行)
    目次情報。新約聖書の奇跡物語について、最近考えていることがあり、書名をみて、手にとった。正直、期待したことについては、なにも触れられていなかったが、解釈について、いくつかの見方について整理されており、基本的なことを確認することはできたように思う。最後に、編者が、カトリックの解釈の歴史について書いており、公会議やさまざまな文書との関係について書かれている部分がわかりやすく、よかった。以下は、備忘録。 (2024.1.12)

  2. 「地図でみる 世界の地域格差 OECD地域指標 2022年版 都市集中と地域発展の国際比較 OECD Regions and Cities at a Glance 2022」OECD編著、中澤高志監訳、鋤塚賢太朗・松宮邑子・甲斐智大・申知燕訳、明石書店(ISBN978-4-7503-5634-1, 2023年9月26日初版第1刷発行)
    出版社情報:内容紹介・目次情報OECD Regions and Cities at a Glance 2022 の日本語訳。データサイエンスの授業で、Choropleth Maps を扱うこともあり、その例として、確認するために、図書館で手に取った。データの見せ方や、指標の作り方など、丁寧に説明もされていて、学ぶこともあった。ただ、同時に、気になったのは、日本のデータが無い項目が多いこと。韓国のデータはあるのに、日本のものがないものもある。部分的に欠落しているものは、他の章にもあるが、章全体で欠落しているもののみ記す。2章、5章、9章、19章、20章、22章、24章。
    (2024.1.15)

  3. 「ランキング世界地理 統計を地図にしてみよう」伊藤智章著、ちくまプリマー新書436(ISBN978-4-480-68460-8, 2023.9.10 初版第1刷発行)
    目次情報。高等学校の教師が、さまざまなトピックについて、ランキングと、世界地図(塗り分け地図)で、情報をつたえる書である。よくできている。ただ、このようなものは、紙媒体ではなく、Web 上で提供し、できれば、ある程度、インタラクティブに、見られるようにすべきだと思っていす。わたしは、そんなものを作っていきたい。この方のブログへのリンク。重要なのは、情報のソースに簡単にアクセスできことかと思う。それがまとまっていないのが少し残念。以下に、今後とのことも考えて書いておく。データの引用元:国際サッカー連盟(FIFA)World Ranking, 理科年表, Wikipedia "List of Longest moutain chains on Earth", GRDS世界河川流量データセンター, Wikipedia List of weather records, UNEP "World Atlas of Desertification: Second Edition (1997)", 国連食糧農業機関(FAO)世界の森林と森林面積率, アメリカ・国立氷雪データセンター(NSIDC), 内閣府防災白書, 国際連合経済社会局 "World population prospects", 世界銀行 "Fertility rate", 国連児童基金(UNICEF)"Child Mortality Estimates", 国連食料農業機関(FAO) "FAO STAT", UNESCO, UIS Stat, WHO, "The Global Health Observatory", World Urbanization Prospects 2018, International Migrants Stock 2019, The State of World Fisheries and Aquaculture 2020, FAO: Forest product statistics, British Petroleum: Statistical Review of World Energy 2021, IEA: Coal 2020, 世界原子力協会 WNA, IAEA PRIS, USGS: Iron, Ore Statistics and Information, World Steel Association, アメリカ商務省貿易局 International Trade AdministrationUSGS: Aluminum Statistics and Information, USGS: Copper Statistics and Information, United Nations Commodity Trade Statistics Database, UNWWTO: Tourism Statistics Database, World Bank: International Union of Railways, CIA: The World Factbook 2021, ACI: The top 10 busiest airports in the world revealed, IRF: Data Warehouse, UNCTAD: UNCTAD STAT, ILO: ILO STAT, Numbeo: Cost of Living, OECD: OECD Affordable Housing Database, 日本新聞協会:世界主要国・地域の有料日刊紙の発行部数, Wikipedia: Books published per country per year, WIPO: The Global Publishing Industory in 2021, ITU: MobileCellularSubscription_2000-2021, World Data.info: Spread of Christianity, World Population Review: Muslim Population by Country 2023, World Population Review: Buddhist Countries 2023.
    (2024.1.26)

  4. 「古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像」青山和夫編、講談社現代新書2729(ISBN978-4-06-534280-0, 2023.12.20 第1刷発行)
    出版社情報。マヤ・アステカ・ナスカ・インカのことは、ほとんど知らなかったのと、一次文明という視点からは、メソポタミヤ・エジプト・インダス、黄河流域、メソ・アメリカ(マヤ・アステカ)、アンデス(ナスカ・インカ)の四つという視点がスッと入ったので、手に取って読んでみた。これら、四つの順番も、時代もほとんど知らなかった。実際、日本の学者が、これらの文明研究に関わったのは戦後ということで、一般人としては、なかなか伝わってこなかったのだろう。印象に残ったのは、「アメリカ大陸の先住民は、前8000年頃から、100種以上の野生植物を栽培化・改良した。これは数千年にわたる先住民の努力の賜物であり、世界各地の社会発展に大きく貢献した。アメリカ大陸原産の栽培植物は、世界の栽培種のじつに6割を占める。ヨーロッパ人が略奪し尽くした先住民の『贈り物』が、結果的に旧大陸に住む大勢の人の命を救った。トウモロコシは、メソアメリカの人々の主食であり続けている。トウモロコシやアンデス高地原産のジャガイモは、旧大陸原産の小麦やイネを栽培できない、痩せた土地でも高い収穫量をもたらした。南米で栽培化されたキャッサバ(マニオク)は熱帯アフリカの主要産物になっており、何度かブームになったタピオカの減量でもある。」(p.13)とあり、他にも、トマト、ズッキーニ、トウガラシ、カボチャ、サツマイモ、バニラ、パイナップル、パパイア、カカオ、アボガド、インゲンマメ、落花生もそうだそうである。さらに、タバコやゴム、コスモス、ポインセチア、ダリア、サルビア、マリーゴールドなども南アメリカ原産。(p14)しかし、文字文明が発達しなかったこともあり、ある程度以上には、深くはならないようにも思う。「メソアメリカ文明とアンデス文明のデータは、文字、技術や自然環境をはじめとして西洋中心史観を相対化する。『文明は乾燥した大河の流域で生まれた』という考えは、高地と低地のきわめて多様な自然環境で文明が発達したメソアメリカとアンデスにはあてはまらない。またメソアメリカは、大型家畜なき人力文明であった。旧大陸の一次文明では、青銅器・鉄器や文字が文明の指標とされる。メソアメリカとアンデスでは基本的に石器が主要利器である、鉄器は用いられなかった。一方で、アンデス文明は無文字文明であった。また、絶対的な権力を行使する王を戴く統一国王はメソアメリカとアンデスには誕生しなかった。古代アメリカの二大文明は、人類の文明とは何かをより深く考える上でも重要である。」(p.287)同感である。
    (2024.1.12)

  5. 「統計シミュレーションで読み解く 統計のしくみ R でためしてわかる心理統計」小杉考司・紀ノ定保礼・清水裕士著、技術評論社(ISBN978-4-297-13665-9, 2023.9.26 初版第1刷発行)
    出版社情報目次情報。本書で使われているコード、練習問題の解答例の、GitHub リンクが与えられている。第1章 本書のねらい、2章 プログラミングの基礎、第3章 乱数生成シミュレーションの基礎で、基本的な事項の解説の後、第4章 母数の推定のシミュレーション、第5章 統計的検定の論理とエラー確率のコントロール、第6章 適切な検定のためのサンプルサイズ設計、第7章 回帰分析とシミュレーション それぞれについて、シミュレーションを用いて解説している。統計的手法で、なにが仮定されているかがあまり明らかではないように、思っていたので、シミュレーションをするということは、それを明確にせざるを得ないので、本書の内容を追いながら、大体理解できた。実際の応用において、仮定を適切に、確認しているかどうか、正直不明だが、個人的には、整理ができてよかった。データサイエンスでは、統計的手法より、探索的な方法の方が適しているとも思った。以下は備忘録: (2024.3.2)

  6. 「苦悩への畏敬 ラインホルト・シュナイダーと共に Reinhold Schneider, 1903-1958」下村喜八著、YOBEL, Inc. (ISBN978-4-909871-95-4, 2023.10.1 初版発行)
    出版社情報・目次。大学図書館に新しく入った図書として並んでいて、最近考えている「個人の尊厳は、一人ひとりの苦悩にある」と近いものを感じて、手に取った。ラインホルト・シュナイダーにも興味を持ったが、直接的に、シュナイダーについて書いてある箇所は少なく、その意味では、少し残念であった。著者は、共助会に長らく関わっておられる方で、本書に収録されているものも、かなりが「共助」が初出となっている。ほかに、北白川通信など北白川教会に関連するものが多い。京都大学哲学系の流れのドイツ文学が専門の方である。本書81ページには次の様にある。「シュナイダーはシュヴァイツァーが彼の家を訪れら時に、この『苦悩への畏敬』という言葉を漏らしているため、シュヴァイツァーの『生命への畏敬』を意識して使っているものと思われる。『生命への畏敬』はわかりやすいと思われるが、『苦悩への畏敬』はわかりやすいとは言えない。しかし、シュナイダーの信仰と行動の根底にある思いであり、考え方である。」とある。以下は備忘録として記す。 (2024.3.14)

  7. 「ダーウィンの呪い」千葉聡著、講談社現代新書 2727 (ISBN978-4-06-533691-5, 2023.11.20 第1刷発行)
    出版社情報・目次。わたしがしっかりと学んだことがなかった分野なので、手に取ったが、予想以上の内容で、非常に学ぶこと、考えることが多かった。ダーウィンの進化論について言われる、自然選択、適者生存などの意味を自分の思想に合わせて理解したり、進化を進歩とすることなど、さまざまな誤解からはじめまり、優生思想の広がりや形を変えたかたちで進展して行くなど、現代にも、将来にも色濃く存在する、課題を含めて、取り扱っている。宗教的な考え方との軋轢も多少は登場するが、その面でも、非常に公平に書かれている。著者にも興味を持った。いずれ、この方の他の著書も読んでみたい。一回では、十分理解できたとは言えないが、いくつかのことについて整理できたことと共に、統計学を切り開いた人たちが、優生学に深く関わっていたことにも興味を持った。このような本の英語版もあれば読んでみたい。いろいろなひとと語り合うために。最後には膨大な文献リストもついている。できれば、そのような論文もいくつか読んでみたい。以下は備忘録: (2024.3.30)

  8. 「ケアと家族愛を問う 日本・中国・デンマークの国際比較」宮坂靖子編著、青弓社ライブラリー105(ISBN978-4-7872-3502-2, 2022.3.14 第1刷発行)
    出版社情報・目次知人の本で、3カ国それぞれに興味があり、内容にも興味があったので手にとった。特に、家族社会学というジャンルで、家族愛をどのように扱うのかにも興味をもった。しかし、あまりにも、わたしがこの分野に学問として無知であることが大きな理由であろうが、比較においても、重要な部分をしっかり捉えることができず、正直消化不良となった。他の本も少しずつ読んでいきたいと思う。ケアと家族愛とあるが、後者について、明確に定義することが難しいだけではなく、文化的、社会的背景のもとで、なにを家族愛として認識するかに、大きな差異があり、それを、実際の活動と結びつけて、質問票から、本質を浮かび上がらせるのは難しいように感じた。価値観が形成されるには、さまざまな社会的要因、そこで行われている施策などが深く関係するのだろう。以下は備忘録: (2024.4.8)

  9. 「人新世の『資本論』」斎藤幸平著、集英社新書1035A(ISBN978-4-08-721135-1, 2020,9.22 第1刷発行)
    出版社情報・目次。わたしの若い頃は、経済学はマルクス経済学(マル経)と近代経済学(近経)に分かれて対立し、東大など中心的な大学のほとんどで、マル経が優位だったと聞く。それが、1991年のソ連崩壊以後、マル経はなりをひそめ、近経では、資本主義(自由な市場の)経済の勝利を謳う。実際、最近、Mankiw の教科書を読んだり、edX での経済の講義を聞いたり死たが、そこでも、その正しさをかならず主張していた。それにも違和感を感じ、マルクス経済学はどうなってしまったのだろうと思っていたら、それは歴史経済学という名前で続いているとも聞いた。新しいマルクス理解・環境問題の視点も取り入れたものとして、若手のホープともいわれているという著者の本を手に取った。公立図書館で予約したが、多くの予約がついていたようで、手元にとるまでに時間がかかった。よく読まれているようだ。しかし、実際、手にとって読んでみると、怒りのようなものが込みあげてきた。1960年代後半からの学園紛争時代に引き戻されるようで、結局、分断と正統性の主張が背後にあると強く感じたからだろう。いくつかの重要な指摘(特に事例)もあるが、後年のマルクスに引き寄せてそれを絶対的に正しいものとして、都合の良いところだけ他の考えを例示し、他の考えに反論を加える。昔に引き戻される感覚が辛かった。「左派の常識からすれば、マルクスは脱成長など唱えていないということになっている。右派は、ソ連の失敗を懲りずに繰り返すのか、と嘲笑するだろう。さらに『脱成長』という言葉への反感も、リッべラルの間で非常に根強い。それでも、この本を書かずにはいられなかった。最新のマルクス研究の成果を踏まえて、気候危機と資本主義の関係を分析していく中で、晩年のマルクスの到達点が脱成長コミュニズムであり、それこそが『人新世』の危機を乗り越えるための最善の道だと確信したからだ。」(p.359 おわりに)この「確信」に問題があるように思う。そして、最初から分断を仮定しての議論。ひとは、ほとんど何もわかっていないことを認めなければ、協働はできないだろう。残念ながら、人の欲望についての考察などはせず、唯物論的史観での科学的思考万能主義、帰納的に得た個別の事実から、すぐに演繹するという乱暴な論理展開が多すぎるように思う。科学者はもっと謙虚である。無知であることを知っているから。障害者支援や老人介護、児童養護施設などの「(著者も重視している)ケア」の現場で生活し、ときをすごすことが大切なように思う。以下は備忘録。 (2024.4.16)

  10. 「ヤバい神 不都合な記事による旧約聖書入門」トーマス・レーマー著 白田浩一訳 新教出版社(ISBN978-4-400-11908-1, 2022.3.25 第一版第一刷発行)
    出版社情報・目次。知人の翻訳で、家にあったので、手に取って読んだ。旧約聖書の解説で、護教的なものは多いが、この本は、まさに不都合な記事について、正面からうけとめ、歴史的な背景理解から、解説している。旧約聖書の豊かさを語っているとも言え、新約聖書との関わりにおいても、さまざまな問いに、完全に答えるというよりも、多面的な見方を聖書本文を忠実に読みながら、読者に問いかけている。旧約を読み解くほどの学識がわたしにはないが、まさに、このような読み方が学びたかった。つづけて、学んでみたいと思う。以下は備忘録。
    (2024.4.24)

  11. 「人口で語る世界史 The Human Tide: How Population Shaped the Modern World」ポール・モーランド著 渡会圭子訳 文春文庫 モ-5-1(ISBN978-4-16-792006-7, 2023.2.10 第1刷)
    出版社情報目次情報。統計的にも重要な人口についての基本について学びたいので手に取った。ある地域の人口が、その土地で生産される農作物で養える以上に増えると、食料供給が不足して、過剰な人口増加は抑えられるというマルサスの罠を、19世紀の産業革命以後、農業生産量の増加、輸送機関の発達、公衆衛生環境の向上などにより、乗り越えた国が現れるようになった経緯が、歴史や地域に焦点を当てながら丁寧に物語られている。基本的な部分は、理論通りに進み、驚くようなことがそれに加わる、それを読み解くのはとても楽しい。本書の欠点といえば、グラフが全く含まれていないことだろう。データから、自分で一つ一つ確認していきたい。世界人口統計2022(United Nations World Population Prospects 2022)も確認したいと思った。さらに、もう少し学び、自分の思考回路に含まれるようにしたい。以下は備忘録: (2024.5.7)

  12. 「被造物ケアの福音 創世記から黙示録のエコロジー 神が創造した世界で私たちに問われる賢明な務めとは」デイブ・ブックレス著 石原謙治・石原香織訳 いのちのことば社(ISBN978-4-264-04481-9, 2024.4.20 発行)
    出版社情報。Planetwise" by Dave Bookless の翻訳。著者は、arocha の神学ディレクターをしておられる。翻訳者のご夫妻から頂いた。環境問題にどのように向き合うかを、福音派キリスト者に語りかける書である。ある一定の背景をもったクリスチャンには、読みやすく、わかりやすく書かれているのではないかと思う。最近は、環境問題に関する神学の本がたくさん出版されているようだが、キリスト者がどのような問題として考えるかなど、基本的な部分は、まだ、未整理で、特に、日本にように、クリスチャンが少なく、かつ、なかなか共に語り合えるような状態ではないところでは、平易なことばで語る書は、ほとんどないように思う。個人的には、クリスチャンへの内向きな語りかけには、多少違和感があるが、このような書がたいせつであることは、確かである。わたしは、もう少し、包摂的に、神様にとってたいせつな人、たいせつなこと、たいせつなものは何ですか、という問いぐらいから始めるのがよいように思うが、どうだろうか。以下は、備忘録。 (2024.5.19)

  13. 「われら主の僕 リベラルアーツの森で育まれ」ICU伝道献身者の会編 新教出版社(ISBN978-4-400-51769-6, 2024.2.29 第一版第一刷発行)
    出版社情報・目次。寄稿者のお一人が出版早々に送ってくださった。ICU開学(1953年)の入学生、一期生から、三十五期生までのなかの、伝道献身者の証が中心である。最後に、並木氏と有馬氏の特別寄稿が付属している。さまざまな背景の方々が、なぜ現在までの歩みをしてきたか、そこに、ICUでの教育や出会いがどのように関わってきたかが中心に証しされている。その方々の背景・召命・活動分野などの多様性を見ると、この方々には、ICUでのキリスト教、そして教師や仲間との出会いが、重要な意味をもっていることが、母校愛とともに伝わってくる文章で埋め尽くされている。しかし、ICU卒業生ではないが、ICU に身を置き、歩んできた自分から見ると、現在の世界や、日本のキリスト教、または、福音に対する重荷や、痛みがほとんど感じられなかったのは残念である。日本の大学で活動するキリスト者のかなりの割合を、教員として、刈り集め、特別な使命をICUが担っていることの責務、そして、最後に、「主よ、どうかこの僕が地上の生涯を終えるまで貴方に従うものとして奉仕することをお許しください。」というエミール・ブルンナーの祈りや、「明日の大学」にかけた、湯浅八郎の「明日への奉仕」があまり感じられなかったと思うのは、私だけだろうか。それは、単に、ICUを卒業しなかったものの、遠吠えなのだろうか。以下は備忘録。 (2024.6.2)

  14. 「日本文化の核心 『ジャパン・スタイル』を読み解く」松岡正剛著 講談社現代新書 2566(ISBN978-4-06-518773-9, 2020.3.20 第一刷発行)
    出版社情報・目次。正直、このようなタイトルの本には、疑念もあり、著者も知らなかったが、講談社現代新書の紹介の Podcast を聞いて借りて読むことにした。わたしが十分理解できた訳では無いが、秀逸である。背景にある、古典や、現代の文書もいくつも読んでみたいと思った。このようなタイトルのもとで、語り尽くすことは無論、不可能であるが、視点などは、いくつも提供されていて、考えさせられた。もともとは、フランス文学もされていたようで、海外のものも、ある程度吸収したうえで、語られている。この方のものを、もう少し読んでみたいと思った。内容については、備忘録として記す。 (2024.6.11)

  15. 「『10の数字』で知る経済、少子化、環境問題 人口は未来を語る TOMORROW'S PEOPLE: The Future of Humanity in Ten Numbers」ポール・モーランド(Paul Morland)著 橘明美訳 NHK出版(ISBN978-4-14-081953-1, 2024.1.25 第一刷発行)
    出版社情報目次情報。「人口で語る世界史」を読んだが、魅力的な内容が含まれるにも関わらず、グラフも無く、説得力ももう一つという感じで、次の本として書かれた本書を手に取った。非常に改善され、グラフも多くはないが含まれており、また、エピソードもいくつも含まれていて、全体的な動きとともに、それが、ひとびとの生活にどのように影響しているのかを、パラレルに見せようとする試みが一部に見られ、伝え方としても学ぶ点があると思う。訳者あとがきに「本書で著者は、10の象徴的な数字を通して人口動態のストーリーを語っている。重要なのは、著者がインタビューやTEDトークで強調しているように、これらの数字が互いに密接に関連していて、全体で一つのシステムのように動くという点である。このシステムは、大雑把にいえば、『多産多死→多産少死→少産少死』という、いわゆる『人口転換』の道をたどってきた。ところが近年、多くの国で、少産少死からそのまま出生率の低下がとまらなくなり、人口減少へ向かうという、『第二の人口転換』が起こっている。この第二の人口転換について著者は、『経済ではなく文化の問題』になりつつあると述べている。もはや物質的条件では説明できず、文化、価値観、個人の選択の問題になっていて、それだけに予測が難しく、対応も難しい。」と上手にまとめている。だれもよくはわからないが、全体的な傾向もみながら、丁寧に、なにをたいせつにするかの議論をしつつ、進んでいく課題なのだろう。最後の、『第二の人口転換』の先頭集団にいる日本についても、取り上げられていて興味深い。先頭集団にいると予測はつきにくいが、開拓者としての、責任と面白さもあるように思う。高慢にならず、学んでいくことができればと思う。以下は備忘録。 (2024.6.18)

  16. 「刑務所しか居場所がないひとたち 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話」山本譲司著 大月書店(ISBN978-4-272-33093-5, 2018.5.15 第一刷発行、2018.7.25 第三刷発行)
    出版社情報・目次・試し読みリンク。社会福祉にいくつかのチャンネルで関わってきたので、ある程度は知っていると思っていたが、本書は衝撃的だった。実際に刑務所で服役した元衆議院議員で、特にセーフティネットなどの関わっていた著者が受けた衝撃ほどは、まだ、受け取っていないのだろうが、実態例を知るという意味で、多くを学んだと思う。本来は、他の人の本も読むべきだろうが、まずは、この著者の他の本も読んでみたいと思った。いずれは、このような問題に関わりたいとも強く思わされた。以下は備忘録。 (2024.6.21)

  17. "NOISE" - A Flaw in Human Judgement, by Daniel Kahneman, Olivier Sibony and Cass R. Sunstein, William Collins(ISBN978-0-00-853444-8, 2021, Great Britain)
    Publisher Information, Internet Archive。 イスラエル・アメリカの心理学者、行動経済学者の、 Danial Kahamenan の本を読んでみようと思い、英語の原著を手に取った。一般向けにかかれていて、難しいことはないが、内容をしっかり理解できたかは定かではない。一回ですべて受け取ることはできないのだろう。ただ、本の書き方として、各章ごとに、まとめがあり、最後に、Review and Conclusion もついているので、理解を確認しながら、進んでいけるスタイルも良かった。基本的には、判断(Judgement)に伴う、bias と、noise を例などで、確かめ、理論的に、定義してから、そのうちの、NOISE に焦点をあわせて、さらに、いくつのも種類にわけて、分析、それらがなぜ存在するかや、機械的に減らそうとすると、可能ではあるが反発も大きいこと、また弊害も分析し、その上で、NOISE を減らすにはどのようにしたらよいかも、議論している。Internet Archive でも読むことができ、また、日本語訳も出版されているので、詳細は省略する。わたしは、NOISE を減らすことよりも、抗うことにも、興味があるが、いろいろと考えさせられる、非常に質の高い本だった。このようなものに出会えるなら、英語の本にどんどん挑戦していきたいとも思った。
    (2024.7.11)

  18. 「ダニエル・カーネマン心理と経済を語る Nobel Prize Lecture and other essays」Daniel Kahneman著 友野典男監訳・山内あゆ子訳 楽工社(ISBN978-4-903062-48-5, 2011.3.18 第1刷)
    出版社情報・目次。リンクにあるように、第一章 ノーベル賞記念講演 限定合理性の地図、第二章 自伝、第三章 効用最大化と経験効用、第四章 主観的な満足の測定に関する進展 となっている。記念講演は受賞の背景となった研究についてわかるが、同時に、共同研究者などへの記述も多く、エイモス・トヴェルスキーだけでなく、多くの人が関係していることを丁寧に述べているのが印象的である。Noise を読んでいて、どのようなことを経験してこられたのか、扱う広さに驚いたが、自伝を読んで、納得することが多かった。自身の様々な経験がこの方の人格を形成し、研究の土台になっているのだろう。ユダヤ人的思考の自由性などということばは、定義も、根拠も曖昧だが、なんとも感嘆せざるを得ない、思考の自由さも感じた。同時に、研究としては優れているが、このようなバイアスが多い、人間の決断に対して、調査や質問などにおいて、そのバイアスが出にくいようなものを作成することもある程度は可能なのかと思った。おそらく、それよりは、バイアスをついて、利得を得ようとする人が多いのだろうが。以下は備忘録: (2024.7.22)

  19. 「エクサスケールの衝撃 次世代スーパーコンピュータが壮大な新世界の扉を開く The Singular Impact of Exa-Scale Computing on Us」齊藤元章著 PHP(ISBN978-4-569-81892-4, 2015.1.28 第1版第1刷発行 2016年10月31日 第1版第5刷発行)
    出版社情報。目次:序章 人類の未来を変える可能性を秘めた半導体、第1章 急速に近づく「前特異点(プレ・シンギュラリティー・ポイント)」、第2章 「エクサスケール・コンピューティング」によってすべてが変わる、第3章 まずエネルギーがフリーになる、第4章 生活のために働く必要がない社会の出現、第5章 人類が「不老」を得る日、第6章 新しい価値観が生まれる、終章 我々日本人が次世代スーパーコンピュータを開発する。ちょっと古いが、わたしが AI に関して考えているようなことと近い路線、すなわち、世界がどのように変わっていくかを論じた本である。全体で、587ページ。著者は、放射線科の医師で、診断装置開発のベンチャーを立ち上げ、その後、世界コンピュータ・ランキング消費電力性能部門「Green500」で独自技術により世界第2位を獲得した研究開発者である。PEZY(Peta = 1015, Exa = 1018, Zetta = 1021, Yotta = 1024 から取っている)社長。目次にあるような一つ一つの項目については、どのぐらい、どのような程度で実現するかについては、ほとんど論じられていないが、未来学の本としては、本人も書いているように、"The Singularity Is Near" by Ray Kurzweil の路線なのだろう。この本も読みたいと思う。以下にも引用するが、日本で開発するのがよいとの強い意識を持っておられるが、それほど、単純な問題ではないことは、明らかだろう。非常に広い範囲のことについて書いておられ、それらの項目のリストとして価値があるかもしれない。以下は備忘録: (2024.8.9)

  20. "Thinking, Fast and Slow", by Daniel Kahneman, PENGUIN Psychology(ISBN978-0-141-003357-0, 2011, Great Britain)
    Publisher Information, Internet Archive。イスラエル・アメリカの心理学者、行動経済学者に大きな影響を及ぼしたとされる、 Danial Kahamenan の Prospect Theory などについて言及した名著とされる、本書を杉並区図書館で予約し、手に入ったので、読んだ。少し前に読んだ、"NOICSE" よりこちらが先で、本来は、この本から読むべきなのだろうが、入手が遅れたので仕方がない。これら二冊の重複もたくさんあり、それぞれの特徴もあるが、二冊目だということで、多少は理解も深まり読めたように思う。基本的には、直感による人間の判断は、専門家も含めて、誤ることがあることを、実験結果とともに示している。間違いの傾向、そのように考える傾向について示しているとしたほうが、より正確かもしれない。何度も登場する、WYSIATI = What You See Is All There IS(あなたがみているのは、眼の前にあるものだけ)(p.85)は、この訳が良いかどうかは別として、玄妙で深いことをも示唆しているが、こころに留めておくべきことだろう。確率による期待値と、重み付けは必ずしても一致しないということが登場するが、期待値は、あくまでも、それを無数に繰り返した場合の到達予測点の確立であって、一回に限れば、ひとの決断には、あまり効力を持たないということだろう。期待値については、Utility とも表現されているが、すこし、比較として疑問ももった。他の箇所にはあるていど、そのことも、書かれて入るが、読みてにとっては、やはり、Misleading であるように思われる。本書中で言及されている、Amos Tversky の "Mathmematical Psychology" や、Richard Thaler の "Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness" なども読んでみたいと思った。以下は備忘録: (2024.8.25)

  21. 「イエスとその目撃者たちー目撃者証言としての福音書」リチャード・ボウカム著 浅野淳博訳 新教出版社(ISBN978-4-400-11180-1, 2011.4.30 第1版第1刷発行)
    出版社情報・目次。"Jesus and the Eyewitnesses -- The Gospels as Eyewitness Testimony" by Richard Bauckham の翻訳。現在、パピアスの引用から、ペテロの通訳だったマルコが「ペテロ由来」の福音書として書き記したということの内的証拠を確認しながら、読むことをしているが、本書は、そのような読み方をも学問的に裏付けるような内容で、分厚い本であるにもかかわらず、最後まで、非常に興味をもって読んだ。ただ、ヨハネについては、記者は長老ヨハネであり、ゼベダイの子ヨハネではないことを丁寧に論証しており、ゼベダイの子説が自然と考えていた、わたしの理解を大きく覆すものだった。個人的には、内的証拠に頼る面が多いが、ボウカム氏の議論は、非常に興味深い。二度ばかり、それほど長い時間ではないが、お目にかかって話したこと、そのときに感銘を受けたボウカム氏の人柄もわたしが素直に読めたことに影響しているのだろう。同時に、それこそが、信頼を基盤として、理解しようとし、だからといって、批判的な見方を排除するものではないという、本書で説いている証言としての福音書をどう読むかというボウカム氏の論とも、つながっていると思う。また、もう一度丁寧に読み、できれば、また、機会を得て、ボウカム氏とも話したいと思った。以下は備忘録。 (2024.9.5)

  22. 「棋士とAI ー アルファ碁から始まった未来」王銘琬著、岩波新書1701(ISBN978-4-00-431701-2, 2018.1.19 第1刷発行)
    出版社情報・目次。正直、驚いた。わたしが、まさに、アルファ碁がイ・セドルに勝利したときから、責任者である、デミス・ハサビスについてなど、いろいろと調べ、AIが人間社会に及ぼす影響について考えたようなことが、しっかり言語化され、書かれていた。著者は、プロの囲碁棋士であり、囲碁AIの開発にも携わっていたこともあり、AIに関する専門的な知識についても、聞くことができる人が周囲にいたようである。ここで、提示されている問題は、すべての人が考えるべき課題だとわたしは思っている。「人間らしさ」とはなにか、なにを大切にするか、そのようなことなしには、AIと向き合うことはできない。国民党政権独裁下から日本に来た著者が、日本では人間の基本とは「他人を傷つけてはいけない」ことだと日本人から聞いて、そんな考え方もあるのかと驚いたことを踏まえて、倫理の共通認識はあるのかとも問うている。まさに、人間についての、基本的な問題に、向き合わざるを得なくなった、ひとが、ここにいることをしること、それだけでも、素晴らしい書だと思う。最近、読んだ本の中で、一番、感動を覚え、さらに考えたいと思わされた。 以下は備忘録。 (2024.9.11)

  23. 「源氏物語 全8巻+別冊付録 第一巻」上野榮子訳 日本経済新聞出版社(ISBN978-4-532-17086-8, 2008.10.30 第一刷)
    出版社情報。編集者が有名な数学者で知人の上野健爾先生で、そのお母様が、主婦業と、後半は、介護をしながら18年かけて完成された口語訳である。別冊付録には、ご夫君の佑爾氏の、「『源氏物語』口語訳 自費出版の完了に当たって」の一文からはじまり、健爾氏の「『源氏物語』の校正を終えて」が続き、最後に、出版の責任を持たれた和泉昇氏の「『源氏物語』上野榮子訳 私家版・覚書」が含まれている。最初は、平成16年12月30日に、お節をぶら下げて、ご長男の、健爾氏と、ご次男が、眞資氏が、おせちをもって、現れて、自費出版をしようと提案するところから始まる。眞資氏は、ご事情から、編集を続けられなくなり、基本的には、健爾氏がすることになったとのこと、英語版を出版された、サイデンステッカーとも親しい和泉昇氏と出会い、自費出版。新聞紙上でも紹介され、読みたいという方がたくさんおられたこともあって、日本経済新聞社から出版されることになったと経緯が語られている。この別冊付録も、感動を持って、読ませていただいた。今回、読み終わったのは、この別冊付録と、第一巻である。『源氏物語』全54帖のうちの最初の6帖が含まれている。桐壺・帚木・空蝉・夕顔・若紫・末摘花である。他の本を読む予定もあるので、第二巻は、すぐには読めないが、数年前にいただいて、やっと手に取ることができてとても嬉しかった。わたしは、古典の素養が全く無いので、しばらく前から、枕草子とそれに関わるものを読み、源氏物語も入門のようなものや、源氏物語についての本を読み、準備をし、今年、たまたま、大河で「光る君へ」が放映されているので、よい機会と思い、読むこととした。是非読ませていただきますと言って、上野先生からいただいて、やっと読み始めることができて、そのことも嬉しい。簡単な概要は知っていたものの、読み始めると、それなりに手強い。口語訳といっても、どうしても、昔のことばがたくさん出てくるからもあるだろう。しかし、文体としては読みやすい。日本最古の長編小説と言われるが、男性目線からすると、光る君(光源氏)には、いくら高貴な生まれとの設定があるにしても、違和感を感じてしまう。官職ももっていながら、仕事のことはなにも書かれておらず、女性だけを追いかけているように見えるところに違和感があるのだろう。女性との関係も、人生の様々な背景のもとで、存在することで、それが切り離されていることから、不自然さを感じしてしますのだろう。また、ある部分「雨夜の品定め」で男たちが女性について語る箇所が、背景となって、物語が進むが、男性から見た女性についての視点は、この程度で、あとは、様々な女性について書かれているという表現が適切であるように思う。その意味で、描写は、美しいが、女性の特徴はある程度表現されているものの、男性の人間味が伝わってこないということだろうか。時代的なものもあるのだろうか。全8巻の第一巻を読んだだけなのだから、少しずつ、受け取ることがあるのかもしれない。あまり、期間をおかず、読みたいと思う。
    (2024.9.21)

  24. 「アルファ碁Zeroの衝撃 竜虎vs最強AI - 囲碁界の新星が最強AIを斬る」芝野龍之介・虎丸著 マイナビ(ISBN978-4-8399-6570-9, 2018.5.11 初版第1刷発行)
    出版社情報紀伊國屋書店:目次など。経緯は、この上の「棋士とAI」に詳しいが、アルファ碁(リー)が、2016年に、イ・セドルを4対1で破り、その後、(アルファ碁)マスターが、ネット碁界を席巻、当時の最強棋士、柯潔にも3対0で完全勝利してから、人間の棋譜を学習データとして使わない、アルファ碁Zero を発表、そのときに、棋譜をある程度公開した。「そのAIの棋譜は、従来のアルファ碁の2つのバージョンとの対戦を20局ずつ、自己対戦を40局、合計80局公開されました。人間の培ってきた考え方、概念などを一切取り入れずに作られたものなので、発想にまるでないような手がたくさん出てきます。アルファ碁ゼロに対しては、既存の価値観は通用しないと言えるでしょう。この本は、そのアルファ碁ゼロの棋譜80局を私たち兄弟で検討し、それをなるべくそのままの形で文に起こしたものになっています。」(まえがきより)となっています。公開されてから、半年程度で、この本は出ています。現在までも、いろいろな形で、YouTube などで、この兄弟は、囲碁の普及活動に貢献していますが、そのような貢献のおそらく、最初のものが、本書なのでしょう。読みやすく構成されているとは到底言えませんが、まえがきにあるように、公開されたものをすべて、なるべくそのままの形で書き上げたものとなっています。そのような AI によって、世界が変わってしまったとも言える、囲碁界に対する、とても大きな貢献であると思います。いまは、いくつも、アルファ碁ゼロのアイディアを汲む、AI碁が開発され、検討もできる有用なものが出ていますから、本書で勉強する必要はなくなっています。しかし、公開直後から、このように取り組んだ記録としても、とても価値のあるものだと思います。すくなくとも、現時点での、囲碁界における、二人の貢献は、異なりますが、今後とも、この兄弟の活躍に期待し、賛辞を送りたいと思います。
    (2024.9.27)

  25. 「ユダとは誰か〜原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ」荒井献著 講談社学芸文庫(ISBN978-4-06-292329-3, 2015.11.10 第1刷発行)
    出版社情報・目次。原本は、2007年5月、岩波書店より刊行、とある。筆者は、東京大学教授名誉教授で、新約聖書、とりわけその外典の研究者(p.274)とご自身を位置づける。2006年、「ダ・ビンチ・コード」が人気を博したことも背景にあるようだが、正典に含まれる、四つの福音書に加えて、同じ年に、「ユダの福音書」のコプト語本文と英語訳が公開されたこともあり要望に答えて、ユダについていくつか書いたものをもとに、まとめたものとのことである。本年8月16日に亡くなられたが、この方の本は読んだことがなかったので、「ユダの福音書」への興味と、マルコによる福音書を学んでいて、しばらくすると、ユダのことについても深く学ぶ必要があると思って、手に取った。荒井氏は、恵泉女学園大学の学長を努めたこともあり、その大学の石原綱成氏の「ユダの図像学」が最後についている。どのような考え方で、研究しているか、基本的なことは、理解できたが、正直、期待したほどのものは得られなかった。1コリント15:5には、復活のイエスが12人に現れたとあり、ここには、当然ユダも含まれていることになると書かれていることには、興味をもったが、パウロがそれを意識していたか、確証はないとも思う。「人が神にならないために」や「ユダのいる風景」など、もう少し、他の本も読んでみたいと思う。以下は備忘録。 (2024.9.27)

  26. 「クレムリンの魔術師 - LE MAGE DU KREMLIN」ジュリアーノ・ダ・エンポリ(GIULIANO DA EMPOLI)著 林昌宏訳 白水社(ISBN978-4-560-09468-6, 2022.11.25 印刷, 2022.12.15 発行)
    出版社情報。裏表紙に「皇帝の帝国は戦争から誕生した。よって、この帝国が最終的に戦争に至るのは道理だった。」とある。1999年12月31日に、プーチンが首相に任命されるその少し前から、プーチンのもとにいて、後にロシア大統領補佐官をつとめたウラジスラフ・スルコフをモデルとしたヴァディム・バラノフの物語である。最初に「作者は、事実や実在の人物をもとに自身の体験や想像を交えてこの小説を執筆した。とはいえ、これは紛れもないロシア史である。」とあるように、正直、どこの部分が創作だかは不明だが、少なくとも、プーチンが首相となり、大統領となり、ウクライナに攻め入る直前までのロシア史を赤裸々に語っている。こんなすごい本があることを知らなかった。リンクから情報も得られるので、詳細は書かないが、著者も素晴らしい。比較政治学者と訳者あとがきにあるが、まさに、当を得た表現である。個人的に、1993年夏のソビエト崩壊のときに、赤の広場のそばにたまたまいたこともあり、その後の混乱、急成長、そして、ウクライナ侵攻を非常に興味をもって、見守って来たが、そのある部分については、政治家の立場からだろうが、ある程度理解できたように思う。乱暴な皇帝の政治とともに、西欧の政治の問題点も浮かび上がらせている。これから、世界はどこに向かっていくのだろうか。それを考えさせられる書でもあった。秀逸である。訳者あとがきには、「ウラジスラフ・スルコフ(1964年生まれ)プーチン政権下でロシアの伝統を重視して国民の権利よりも国益を重視する『主権民主主義』を提唱し、プーチン政権のイデオロギーを築き上げた人物だ。数数の政界工作にも関与し、プーチン政権を長期化させた立役者だ。本書のエピソードにもあるように、2022年のロシアのウクライナ侵攻の足がかりになった2014年に始まったドンバス地方での武力衝突は、スルコフの画策だと言われている。2020年にクレムリンを去り、その後の消息は自宅軟禁状態にあるなど、謎に包まれている。」他に、ミハイル・ホドルコフスキー、ボリス・ベレゾフスキー、イーゴリ・セーチン、エフゲニー・プリゴジン、アレクサンドル・ザルドスタノフ、および、著者についての解説がついている。以下は備忘録。 (2024.10.2)

  27. 「国連と帝国 世界秩序をめぐる攻防の20世紀 The Enchanted Place - The End of Empire and the Ideological Origins of the United Nations」マーク・マゾワー(Mark Mazower)著 池田年穂訳 慶應義塾大学出版会(ISBN978-4-7664-2243-6, 2015.8.5 初版第1刷発行)
    出版社情報・目次。新聞に紹介記事があり、手に取った。このような歴史的な見方から、ブール(ボーア)戦争から始め、国際連盟から、戦間期、そして国際連合へとたどる道を書かれていものは、はじめてでとても興味深かった。第1章 ヤン・スマッツと帝国主義的インターナショナリズム、第2章 アルフレッド・ジマーンと自由の帝国、第3章 民族、難民、領土 ユダヤ人とナチス新体制の教訓、第4章 ジャワハルラール・ネルーとグローバルな国際連合の誕生、という構成である。ヤン・スマッツは、国際連合憲章の序文の起草者、アルフレッド・ジマーンは、憲章の条文を起草した人のようだ。特に、スマッツを中心として書かれているが、大英帝国や、その後の、Common Wealth、国際連盟と国際連合両方に国の全権として参加したひとでもある。マイノリティと、個人の人権の問題、国の中の問題への関与の仕方、インドと、南アフリカの関係、アフリカをどうしていくか、そして、国際連合は、51カ国から、四倍以上に膨れ上がったこととその影響、ジェノサイド禁止条約と、世界人権宣言の関係など、興味深いトピックばかりだった。インドの全権として国際連合に臨んだ、ビジャエラクシュミー・バンディト(Pandit, Vijaya Lashmi)がネルーの妹であることも知らなかった。偏った見方なのかもしれないが、この方の本をもう少し読みたいと思った。明らかに、国際関係論から理想的な平和な世界を構想するという立場とは異なり、歴史的背景がどのように関係しているかを丁寧に理解することも大切だと感じた。以下は備忘録: (2024.10.9)

  28. 「イエス・キリストの言葉 ー 福音書のメッセージを読み解く」荒井献著 岩波現代文庫 学術213(ISBN978-4-00-600213-8, 2009.3.17 第一刷発行)
    出版社情報目次情報。文献批評研究、特に伝承史的、編集史的観点から、丁寧に福音書から語っている。もともとは、1993年4月から9月までの半年間放送されたNHK「こころをよむ」のラジオ放送で語られた「イエス・キリストを語る」のテキストから大部分が取られているとのことである。「序」の最初に「以下において私は『聖書』のテキストの中に宿されているイエスの問いかけに応える形で、イエス・キリストを語ることとする。資料となるのは『新約聖書』、とくに『福音書』である。その際、『聖書』をどう読むかによって、イエス・キリストを語る際の『語り方』も異なってくる」と書いており、まさに、問いかけに応えよういう姿勢が印象的であった。伝承史の視点として「イエス伝承のレベルとマルコがそれを素材として『福音書』を編集したレベルは、まず時代的に区別されなければならない。それは、時代的のみならず、内容的にも区別すべきだというのが私どもの立場である。」(p.9)とある。本書でも、マルコと、マタイ・ルカとは、伝承史における位置づけも区別し丁寧に扱っているが、マルコとヨハネに関する限り、一次伝承者との距離に関する理解は、私とは異なるように思う。しかし、このように、伝承史的、編集史的観点から、丁寧に読み解いていく手法を学ぶことができたことはとても有意義であった。個人的には、聖書学者における分断が、キリスト教界の分断にもつながっていると思うので、方法論の違いから、議論ができなくなってしまっているように思われるが現状は、非常に悲しむべきことだと考えている。ただ、特に、日本やドイツにおいては、戦争の時代の克服、それは、根拠を一つ一つ疑い騙されないという生き方と、絶対的に正しいものから離れないという生き方が際立ち、対話が難しくなっていたようにも思う。これからは、少しずつ改善していくだろうか。以下は備忘録: (2024.10.16)

  29. 「イエスとその時代」荒井献著 岩波新書909(ISBN978-4-0-0412158-9, 1974.10.21 第一刷発行)
    出版社情報。荒井献氏の著書の中で最も有名かもしれない。44歳ごろの代表的著書である。下の引用にもあるが、氏の一つの「イエスとその時代に対する歴史的接近」である。基本的な、方法を述べ、時代の基本的な部分を説明してから、始めている。古層に分け入る文献批評的手法、その決め方など、勉強になるとともに、かならずしも同じ結論には行き着かないと感じる部分も多いが、わたしが、聖書を読む時に採っている方法と、共通部分も多く、それらをわかりやすく、かつ理解できるように、伝えることは、とても重要だと感じた。これからも、わたしも努力していこうと思う。わたしの「聖書の学び」にも、特に、時代の部分を抜書きしておいた。いまは、絶版のようである。目的から、マルコを中心にそれを出発点に編集史を見る傾向がつよいが、氏も認めている、ヨハネに史実性が高いものが存在するとしつつ、ヨハネとの違いがなぜおきているのかについての考察が十分ではないように思われる。もしかすると、後の本でそれがされているのかもしれない。いつか、全集にも挑戦したい。ヨセフスや他の史料ををしっかりと学びなおすことも必須だとも感じた。今後の課題としたい。以下は備忘録: (2024.10.22)

  30. 「モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち」楊海英著 講談社現代新書 2749(ISBN978-4-06-536677-6, 2024.7.20 第一刷発行)
    出版社情報紀伊国屋書店サイト・目次情報など。叙事詩『モンゴル秘史』も批判的にではあるが、深く理解して、チンギス・ハーン家の歴史を描いている。西洋や中国から見たものではない、中央アジアの歴史として描いたモンゴル史として、秀逸だと思う。また、これは、日本で学んだモンゴル人が書いたモンゴル帝国史である。「『お母さん(エージ eji)』という言葉を聞いただけで、屈強な遊牧の戦士たちは例外なく涙ぐむ。戦時でも、平和な日常生活の中でも、それほどモンゴルの男たちはみは、『マザコン』なのである。」(p.20)と始まる。男性は、軍事的なことだけで、政治・経済・社会問題は、みな女性が仕切っていたようで、立派な王妃が何人もいたことが書かれている。興味をもって読んだ。チベット仏教、イスラームに加えて、ネストリウス派のキリスト教の影響も強く、それなりにいくつもの宗教が共存している様子も伺われ、このことも興味深い。森での狩りから、森を出て狩りをし、遊牧をし、定住放牧をし、町に住みという流れが、堕落ととらえられていたようで、元として中国を征服してからあとは、遊牧か、定住して中国化していくかで、分裂、文化的に異なる、朝鮮からの貢女によって、衰退していったようだが、最終的には、草原の遊牧民として、モンゴルが統一されたことまでが書かれてある。年代的には、テムージン(チンギス・ハーン)が生まれた、1162年ごろから、ダヤン・ハーンの死去の、1517年までの歴史である。中央アジアの歴史については、全く知らなかったので、さらに知りたいと思った。以下は備忘録: (2024.10.30)

  31. 「国際協調の先駆者たち - 理想と現実の200年 Governing the World - The History of an Idea」マーク・マゾワー(Mark Mazower)著 依田卓巳訳 NTT出版(ISBN978-4-7571-4338-8, 2015.6.15 初版第1刷発行)
    出版社情報・目次著者ホームページ。「国連と帝国 世界秩序をめぐる攻防の20世紀 The Enchanted Place - The End of Empire and the Ideological Origins of the United Nations」を読んでから、ぜひ、この本も読んでみたかった。まとまりとしては、「国連と帝国」の方が、絞られており読みやすいが、本書は、ナポレオン後の体制を決めた 1814年のウィーン会議からの200年の国際協調の歴史をその背後の考え方、どのように進んだか、破綻したかなど、簡潔に書かれている。むろん、それぞれの評価は異なるものもあるだろうが、これだけのものをある連続性をもって見ることができる歴史家がいることにも驚かされた。日本で、個々の部分に関して、詳しい人はおられるだろうが、このマゾワーに近い人はいるのだろうか。国際関係を学ぶ人には是非、この二冊はまず読んでほしいと思う。出版社情報には、主要な登場人物のリストもある。みな、聞いたことがある名前だが、一人ひとりについて語れるかといわれると、難しい。また、著者ホームページには、著者が書いた記事も多く掲載されている。時間をみつけて読んでみたい。印象としては、The History of an Idea と成っているが、すばらしいものも不完全というだけでなく、それぞれの時代の人々にどのように受け入れられ実現されていき、その理想・考えが捨てられていったかが書かれており、複雑であることはだれもが理解できると思う。現実に、また新たな理想・思想・方策が提案されたとき、どのように評価し、どのように実行され、評価されていくのかも考えさせられる。以下は備忘録: (2024.11.16)

  32. 「人が神にならないために 説教集」荒井献著 新教出版社(ISBN978-4-400-52150-1, 2016.4.1 発行)
    出版社情報紀伊国屋書店サイト:目次情報 最初の「最も小さいもののひとりに」は、氏が恵泉女学園大学学長をしていたときの学生向けの説教であるが、それ以外は、基本的に、氏が所属していた日本キリスト教団まぶね教会での、説教である。氏は牧師ではないが、月に一度、信徒が語ることがあるようでそこで指名されされた説教で、最後は本の表題ともなっている「人が神にならないために」がタイトルである。学問的なものを読むにつけて、キリスト者としての、メッセージを読んでみようと思い、手に取った。学問と信仰がつながっており、ひとつの信仰者の生き方として学ぶことが多かった。以下備忘録: (2024.11.24)

  33. 「荒井献著作集7」荒井献著 岩波書店(ISBN4-00-092447-8, 2001.11.5 第一刷発行)
    出版社情報・目次紀伊国屋書店サイト:目次情報。最後に研究者で、荒井献のもとで学び、のちに、東京大学教授となった大貫隆氏の研究者らしい、ある程度辛口の解説がついている。「トマスによる福音書」の基本的なことについて、日本ではこの分野の先駆的第一人者かとみていた荒井献の書を読んでみた。わたしは、著作集というものをほとんど読んでいなかったが、著作集は、過去の著作をまとめたものと思っていたが、本書は、『トマスによる福音書』講談社学芸文庫(1994)を元にした、増補・改訂版を基礎として、論文『古代教会の伝承における使徒トマスーその宣教と神学』『トマスによる福音書ー特に福音書正典との関係について』および『トマスによる福音書におけるイエス』を加えて、著作集第7巻としており、書き下ろしではないが、初出のものにかなりの編集が加えられている。それが研究を続けているときに出版される著作集であることを証しているということか。1945年12月にルクソールの北方80kmの、四世紀のはじめに修道士パコミオスがつくったエジプトで初めてかつ最大の自給自足による修道士共同体のあった場所のナイル川対岸から出てきた、コプト語(古代エジプト語)で書かれた、13のパピルス写本(コーデックス:冊子写本)のひとつが『トマスによる福音書』である。114の「ことば」から構成されており、以前に、ざっと英語訳とその日本語訳を読んだ印象は、語録であるが当時のひとつの文化背景であるグノーシス(覚知)主義の影響を深く受けているが、語録という性質から、もしかすると、共観福音書などのもととなった語録のひとつからとったものかと思われる古い内容のものも含まれているかもしれないと思った。ただ、印象からすると、神秘性は持っているものの、考えさせられる深さは感じなかった。学問的に、基本的なことは、本書にまとめられているが、正直にいうと、このような文書の研究の難しさと、文献批評学としてのいみはあるものの、新約聖書理解に影響があるかと考えると、否定的な感覚をえた。ただ、最初にある、著者が指導教授E.シュタウファー教授と関連したエピソードは研究者のリアルとして興味深いので、引用する。「ドイツ留学中、指導教授E・シュタウファー先生の勧めに従い、1961年12月から翌年の12月にかけて約一ヶ月半、私はユトレヒトのクィスペル教授のお宅に客となった。(中略)その一夕、教授はかなり興奮気味に、教授がはじめて『トマスによる福音書』(以下『トマス福音書』と略記)をコーデックスの中に特定したときのことを私に話された。教授がコプト博物館の一室で、数年前にイタリア人古物収集家によって鑑定のためにここにもちこまれたというコプト語コーデックスのパピルスを、とりあえずめくってみたときに、最初に目に入ったのが、次の文章であった。『木を割りなさい。私はそこにいる。石を持ち上げなさい。そうすればあなたがたは、私をそこに見出すであろう。』教授は、この言葉を『アグラファ』(『書かれざる言葉』の意。専門語としては、『新約聖書に書かれていないイエスの言葉』『未知のイエスの言葉』の意に用いられる)の一つとしてすでに知っていた。すでにエジプトのオクシリンコスで発見されていた数多くのギリシャ語パピルス(いわゆる『オクシリコス・パピルス』)の一部に若干のアグラファが含まれており、特に右の言葉をめぐっては、その信憑性(実際にイエスの口に遡るか否かということ)について学界で議論の対象とされていあものである。クィスペル教授は驚いて、この言葉の前後を読み進めていったら、オクシリンコス・パピルスのアグラファがそのほかにもいくつか特定されただけではなく、これらのアグラファを含むコーデックスの一部が『トマスによる福音書』であり、しかもこれには、100を越えるイエスの言葉が収録されていることを確認した。教授は直感的にこの福音書には共観福音書(マタイ、マルコ、ルカの各福音書)に編集されているイエスの言葉伝承そのものが収録されている、すなわち、これは現行の福音書よりも古い段階の福音書ではないかと思った、ということである。」(p.7,8)
    (2024.12.7)

  34. 「だれも取り残さない台湾の天才IT相『オードリー・タン』の誕生」石崎洋司著 KODANSHA(ISBN978-4-06-527593-1, 2022.4.18 第1刷)
    出版社情報・目次。 台湾(中華民国)のIT相のオードリー・タンを描いた、ジュニア向けの本である。長男夫人から勧められ、孫の見守りのときに読んだ。以前から興味を持っていたが、その背景が、とくに既存の教育の中で苦しんできた背景とあわせて非常によく書かれていると思う。関係する他のものも読んでみたいと思った。以下は、整理はしていないが、備忘録である。いずれ、もう少しまとまった形で、このひとについも、示すみちについても考えてみたい。このようなひとが、確かに、この人は、Gifted だが、世界に、1000人規模で活躍すれば、世の中は変化の一歩を踏み出せるのかもしれないと思った。むろん、これは、ひとつの One Step にすぎない。「みんなの問題をみんなで解決する社会」「透明性」「開かれた政府」 (2024.12.11)

  35. 「ポケット説教ー聞きたい『心の眼』」矢澤俊彦著 燦葉出版社(ISBN978-4-87925-150-3, 2024.10.25 初版第1刷発行)
    出版情報・荘内保育園発信情報。いつも文書をおくってくださる山形の牧師が書かれた本である。他で読んだ文章も入っているが、矢澤先生の伝えたいことが詰まっていることは確かである。地方教会の困難さはいろいろと見聞きしているので、この方のように、発信を続けておられるのは、ほんとうに素晴らしいと思う。最後に、教会員との問答がる。「教会員:話がここまできましたので、先生の約五十年の伝道人生を総括していただけませんか。とにかくこの東北のナザレみたいな城下町で長年努力してこられたのですから。矢澤牧師:いやぁ。伝道らしきものは、手掛けてきたけれど、ほとんど完敗に近い状況です。できた多くの友達も、肝心の礼拝には姿を現しません。『何をしても無駄だったという思いがかすめる時もあります』。ただ私はゆったりした時の流れの中で、八十歳を過ぎていよいよ自分が罪人であることがわかり、そのゆるしのありがたさに感謝するほかない。伝道はこれからという気がするのです。私はまだヘコタレてはいませんよ。発芽から100年たって咲く花があるそうです(笑い)。」大変さが伝わってくるが、何が成功なのか、わたしも最近考えさせられている。それは何を神様は喜ばれるのだろうかということとも言い換えられられるだろう。ひとりのかたのたいせつな歩みが、東北の地に、そして、多くの関わりあったかたがたとの関係のなかに、そして、それも次の世代につながっている形で、残されているように思う。その牧師の時に、教会員が非常に増えたとして、それが何なのかとも考える。たいせつなものをもとめていきたい。この先生とも共有しながら。
    (2024.12.19)

  36. 「3・11心の災害 ー 福島にみるストレス症候群」蟻塚亮二・須藤康宏著 大月書店(ISBN978-4-272-36087-1, 2016.6.20 第1刷発行)
    出版社情報・目次。蟻塚亮二に、PTSD と診断してもらったという方から借りて読んだ。「沖縄戦と心の傷」や「うつ病を体験した精神科医の処方せん」や「統合失調症とのつきあい方」なども著書にあり、いずれ読んでみたいと思う。特に、沖縄戦の話は精神科的視点からの本は、わたしは他に知らない。この本がよいかどうかは不明だが、統合失調症についても、勉強したいと思う。さて、原発事故が、地震・津波の直後におそったことの多大な影響について、考える機会が与えられたことはとても重要だったと思う。いのちだけでなく、よく生きることを問うべきだと思う。肉体的ないのちを絶対化することは、やはり単純化バイアスのように思われる。精神疾患は本当に、難しいが、その支援もふくめて、関わりを得たことで、学び、考えることがとても多くなったと思う。これからも、社会的養護、ともに生きるということを基準に考えていきたい。以下は備忘録: (2024.12.27)

  37. 「トルストイ童話集ー新訂版」水谷まさる編譯 富山房企画(ISBN978-4-86600-126-5, 1927.1.20 初版発行、2024.8.28 新訂版第1刷発行)
    出版社情報・目次抜粋。目次:子供たちのために/神は真を知るが時の来るのを待つ/百姓と胡瓜/大きな炉/しあわせな人/兄弟と黄金/鶏卵のように大きな種子/イリヤス/愛のあるところに神はいます/年とった馬/馬乗りの稽古/捨児/火事/柳/ブウルカ/ブウルカと猪/雉子/ミルトンとブウルカ/ブウルカと狼/泥亀/野兎/危なかったブウルカ/ブウルカとミルトンの死/熊狩/イワンの馬鹿/三人の隠者/がらんどの太鼓/小悪魔とパン片/コウカサスの捕虜/人はどれだけの土地がいるか/悪魔の意地にも神は勝つ/教え子/なにで人は生きるか(33話)「はじめに」にあるように、写実的な要素の勝った物語と、比喩・諷刺、教訓の物語からなっている。「トルストイは、1828年に生まれて、1910年に死んだ。伯爵であったが、道を求めて、常に身をもって苦しんだ人で、死ぬ時は、遁世の途上、小さな寒駅に於いてであった。りっぱな文学作品も多く、宗教上、教育上の論文も多いが、これらの童話は『彼がこのほかに、なに一つ書かなかったにしても、優に世界的文豪の名をえたであろう』という評言もあるくらい勝れたものである。」とある。また、「純然たるキリスト教の道徳説に、トルストイの思想上の中心はあって、その要領をフランスのヴィギュエが次のように言ってる。『悪に逆らってはならぬ。人を裁いてはならぬ。殺してはならぬ。従って、法廷なく、裁判なく、軍隊なく、戦争なく、牢獄なく、また、公私すべての復仇はない。世界の法則は生存競争であるが、キリスト教の法則は、自己の生存をも、他人のために、犠牲にすることである。』」わたしが実際に全体を知っていたものは、靴屋のマルチンの名で呼ばれる「愛のあるところに神はいます」ぐらいだったが、教会学校での学びなども含め、わたしの背景に、ヴィギュエのことばのような倫理観が基盤をなしていることを、この童話集を読みながら感じた。ただ、同時に、今の時代にも、これをこのまま伝えるかと問われると、このままでは受け取ってもらえないと思う。やはりこの時代のひとに受け取ってもらえるメッセージに変えないといけないのだろうとも感じた。以下は少々備忘録: (2024.12.29)


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