Last Update: December 30, 2005
2005年読書記録
- 「ある数学者の生涯と弁明」G.H. ハーディ/C.P. スノー著、柳生孝昭訳、シュプリンガー・フェアラーク(ISBN4-431-70665-8, 1994.10.27-2003.2.7)
解析的整数論の著名なイギリスの学者の数学 (1877-1947) についての弁明。リトルウッドとの共同研究、インドの天才、ラマニュジャンを見い出したことでも有名。スノーの文章は非常に洗練されていて、かつ配慮もあり、読みやすい。また訳者解説もわかりやすい。しかし、圧巻は、主要部分である、ハーディの文章であろう。数学の価値を、ある視点から述べている。非常に考えさせられた。もう一度英語で読んでみたい。いくつかの引用を記す。「数学がどの芸術や科学の分野にもまして、若い人のものであることを、数学者は一時たりとも忘れてはならない。」(p.9) 「人の第一の義務、少なくとも若い人のそれは、野心的であると言うことである。野心は高貴な情熱で、様々に異なるがいずれも正当な形をとって現れる。」(p.14) 「野心は、この世の最良の仕事のほとんどすべてを成就させる力の源である。特に、人間の幸福に真に寄与するたいていのことは、野心のある人の手によってなされた。」(p.15) 「チェスの指し手の問題は真正の数学であるが、ある意味では「とるに足らない」数学でもある。その指し手が、どんなに巧妙で複雑な動きで、またどんなに独創的で人の意表を突くものであろうが、何かそこに本質的なものが欠けている。チェスの指し手の問題は重要 (important)でないのである。最高の数学は美しいばかりでなく、重い (serious) のである。」(p.23)「多数意見を述べるなどと言うのは、一流の人の時間を割くに値しない。定義によってそうする人は他に大勢いるからだ。」「数学者と物理学者の立場の違いは、恐らく普通考えられているよりも少ない。私の見るところでは、最も重要な違いは、数学者の方が実在とはるかに直接的な関わり合いを持つと言う点にある。」(p.49) 「若者はうぬぼれなければならない。しかし愚かであってはいけない。」「人は時には難しいことを言わねばならないが、しかし、それをできるだけ簡潔に言わねばならない。」
(2005年1月1日)
- 「英語ライティング・ルールブック(正しく伝えるための文法・語法・句読法)」デイヴィッド・セイン著、DHC刊(ISBN4-88724-363-4, 2004.4.27)
David Thayne が書いたもの。このような一般読者むけが最近出ているが、それだけ、需要もあると言うことであろう。読者も日本人を想定し、学校文法とは違った切口から、英語の文章を書くときの基本が書かれている。アメリカ英語とイギリス英語の言葉のリストや、簡潔な表現のリストも面白い。文法、語法、句読法が中心で、特に句読法は、良く書かれている。しっかりと学び、利用するには少したらず、結局原語のものを参照せざるを得ないと思うが、基本事項で、いつも不安になる句読法や、それらのアメリカ英語とイギリス英語の違いがわかるのは面白い。すべて読んだがもちろん、読むそばから忘れてしまったのは、この手の本では避け難いことであろう。
(2005年1月2日)
しばらくお休み。
- 「日本の子供を幸福にする23の提言」中村修二著、小学館 (ISBN4-09-348371-X, 2003.5.1)
青色発光ダイオードの開発者が書いた教育論。9月20日にICU理学科で講演していただくことになり、急いで読んで見た。どうしても教育論は、自分の歩んできた道から自由ではいられない。その部分を差し引いて考えてみる。この書の中心にある「大学入試撤廃論」しかし本質はそこにあるのではないだろう。「ウルトラクイズ競争」のような暗記重視の非常に偏った試験方法で順序付けられたピラミッド構造が作りだし、かつこの構造を支える官僚によって決められる社会構造と価値感が、滅私奉公の「永遠のサラリーマン」を作り、日本人そして日本のこどもの夢と自由と創造性を奪っている。ここから解放することによってはじめて、こどもは幸福になる。わたしはストイックな性格ではあるが、中村氏の言うように苦労するなら自分の好きなことで苦労すべきはその通りだと思う。ただ、「何でも自由さが幸せのもと」との考え方は、問題。社会保障的な枠組はしっかりと合意をもって育てなければいけない。夢ばかり持っていられない、老人や、夢を持てない層の人が自由さのなかでは、かならず増えていくのだから。
(2005年9月17日)
- 「世にも美しい数学入門」藤原正彦・小川洋子著、ちくまプリマー新書011、筑摩書房(ISBN4-480-68711-4, 2005.4.10)
藤原正彦は数学者、父は新田次郎、母は藤原てい。「若き数学者のアメリカ」などエッセイ多数。小川洋子は作家。芥川賞など受賞。「博士の愛した数式」「ブラフマンの埋葬」など。裏表紙には「『数学は、ただ圧倒的に美しいものです』数学者は、はっきりと言い切る。想像力に裏打ちされた鋭い質問によって、作家は、美しさの核心に迫っていく。」とある。数学の美しさを数学者以外に説明することは難しい。しかし、三角形の内角の和が180度とか、共通の弧の上に立つ円周角はすべて等しいなど、中学の数学で出てくるものから、その美しさを観賞する。数学自体を紹介するという王道に共感する。しかし、残念ながら、小川さんの応答をみていると、わかっているようでわかっていない。それを部分的にでも通じたということで、褒めている藤原さん、そういったコミュニケーションの綾も面白い。数学者でかつ、文章がうまい、藤原さんの様な人に、どんどん、数学の美しさを言葉に表現するこころみをして欲しい。
(2005年12月30日記)